
アーティスト・映像作家 小林大賀さんインタビュー
何かに夢中になっている人を訪ね、その「没頭」の先にある景色を紐解いていくインタビューシリーズ「没頭さん、こんにちは」
今回お話を伺ったのは、アーティスト・映像作家の小林大賀さん。絵本、イラスト、映像と、ジャンルを横断しながら作家活動を続ける小林さんが、約1年間のメキシコ滞在で制作した長編ドキュメンタリー『巡礼の季節−ヒクリ、8000と20年』を、2026年10月31日〜11月3日の4日間、ウツワツクルで上映会を開催。なぜ作るのか。なぜ旅をするのか。そして、没頭することとはどういうことか。1時間、じっくり話を聞いた。
「作ってないと、危ないかもしれない」
――まず、簡単に自己紹介をお願いします。
小林大賀です。1986年生まれ、札幌で生まれ育ちました。アーティスト、映像作家として活動していて、今は札幌と日高を行き来しながら仕事をしています。この5、6年は特に映像を作ることが多くなってきたんですが、もう少し幅広く、絵本を作ったり、イラストや絵の仕事もしています。イベントのフライヤーデザインのような仕事も、これまで手がけてきました。
―― 映像・絵本・イラストと、幅広く手がけていらっしゃいますね。小林さんにとって、作品づくりの根っこにあるのはどんなことだと思いますか?
ものを作るのはもちろん好きなんですけど、それ以上に、「知りたい」という気持ちの方が強いのかもしれないな、と思います。たとえば、人の心って本当にどうなってるんだろうとか、なんで心が病むのかとか。そういうことへの好奇心の方が、自分の性格上、強いんだと思います。そこで、自分の中に溜まったイメージを、ある時どうしても形にしたいという衝動が出てくる。今回のメキシコのように、制作することと絡めていくやり方もあって。だから「その時、その場で一番できそうな形に、やることが分かれていく」という感じですね。
―― 東京から札幌に戻ってきたのはいつ頃ですか?
27、8歳くらいの頃です。そこから一番長く務めたのが、札幌のアートマネジメントの会社で、さっぽろ天神山アートスタジオのコーディネーターとして働きました。パートをしながら自分の創作もやっていて、というバランスが一番長かったですね。
―― 趣味ではフラメンコギターを弾かれるとか。
ラテン音楽が昔から好きで、その流れでフラメンコギターも。ブラジル音楽のレコードだと、ポップスの範囲にあるものでも、ちゃんと掘ってみると実はブラジルの土着の儀式の歌をアレンジしたものだったりする。そういうことに20年以上、漠然と引き寄せられてきた感じはあります。

なぜメキシコへ。8000年続く巡礼に出会うまで

―― 今回上映される『巡礼の季節−ヒクリ、8000と20年』について教えてください。
約1年間のメキシコ滞在中に制作した長編ドキュメンタリーです。メキシコの先住民族・ウイチョル族のコミュニティを訪ね、彼らの伝統の巡礼に参加させてもらう機会があって、それがドキュメンタリーになりました。
―― サブタイトルにある「ヒクリ」とは?
サボテンの一種で、幻覚作用のあるサボテンです。ウイチョル族をはじめとするメキシコのいくつかの先住民族が、儀式で伝統的に使う文化を持っています。彼らは8000年このヒクリを使い続けていると言い、自生する砂漠まで、毎年グループを組んで巡礼の旅をする。サブタイトルの「8000」はそこから来ています。昔は徒歩で3週間以上かけた巡礼が、今は車で2泊3日になっていて。私が参加したグループは20人いないくらい、ピックアップトラック2台とバン1台で、おじいちゃんもおばあちゃんも子供も一緒に行くという旅でした。


―― 最初からウイチョル族を取材しようと決めていたわけではないんですね。
全然そうではなくて。現地に着いてから、こういうテーマでこういう取材がしたいと人づてに話して歩いて、紹介してもらったのがウイチョル族のシャーマンの方でした。でも正直、最初は気乗りしなかったんですよ。ヒクリというテーマは取り扱いがすごく難しくて、ともすると「メキシコ来てヒクリやってみた」みたいなものになりかねない。そういうものは絶対に作りたくなかった。だから半年以上、別の取材先を探し続けたのですが、他に二つ走らせていたラインは全部実らなくて、最終的に形としてできたのがこの一本でした。
―― 10日間の撮影でドキュメンタリーを一本つくるというのは、相当な凝縮ですね。
ドキュメンタリーとしてはすごく短い期間だと思います。そして、すごく個人的なものを含んだ映画になりました。純粋な「民族誌映画」ではなく、僕自身のロードムービーであるような。ちょっと変わったバランスの映画だと思っています。そのバランスがなんか面白いと思う人がいれば、と。
35歳の鬱屈。「40までに何かできないと、もう終わりだ」

―― メキシコに行ったのが37歳のとき。社会人になってから、1年間海外に出るというのは相当な決断だったと思うんですが。
まあ、何も考えてないんですけどね(笑)。ただ、ネガティブな方から言うと、35歳くらいになったとき、一体何をやってきたんだろうという感覚がすごく強くなって。作るということもコンスタントにできていなかったし、経済に落とすということも全くなく、何もできていないと思ったんですよ。結構鬱になりましたね。寝込んだとかではないですけど。40までにもう一歩何かできないと、もう終わりだな、という気持ちが、腹をくくらせた部分はあります。
―― 「40まで」という感覚は、何かに向かうべき理想像があったということですか?
憧れの誰かがいたというよりは、自分のやってることの性質への自覚が弱かったんだと思います。僕の作るものって、一般的に広く流通するようなものとは違うんですよね。一方で、はまってくれる人が現れたりとか、好きな人は好きという類のものだとは思っていて。その辺への諦めが足りなかったというか、期待が多すぎたということだと思います。
―― そこからメキシコ行きにつながっていくきっかけは?
メキシコに行く1年くらい前に、自費出版した絵本があるんですよ。これまで旅した地中海世界の視覚的な要素を盛り込んだ世界観の絵本で。個展の会場で、名前も知らない方に「あなたの書く世界はラテンアメリカの神話に近いから、もっとラテンアメリカのことを調べてみては」と声をかけられ、聞くと人類学者の方でした。そういうことも、メキシコ行きにつながっていったきっかけの一つです。あの絵本がなんとなく、自分をそこへ導いてくれたような気もしていて。作るということが、自分の道とか旅とか、大げさに言えば人生をリードするような感覚になることがあるんだなと、メキシコで思いました。


小林さんが自費出版した絵本『謝肉祭』から
創作は代謝。溜まったものは、出さないと壊れる

―― 「なぜ作るのか」という話を聞かせてください。知りたいだけなら、本を読んで旅をしてインプットして終わりでもいいはずで、それでも作品として外に出したいと思うのはなぜなんでしょう。
今思いついたんですけど、「うんこ」と同じかなと思って。入りっぱなしだと壊れちゃうんですよね。腎臓が悪くなるとめちゃくちゃ病気になるじゃないですか。創作も、自分の中にただ積もっていく一方だと、鬱屈してきたりすることへの反応かもしれない。自分の中からリリースしてあげないと、具合が悪いような。
―― 生理現象に近い、ということですかね。
そうかもしれないですね。この4、5年で「作ってないと危ないかもしれない」って思うようになりました。実は20代の前半に、のめり込みすぎて「このままやったら頭がいかれる」と思って、創作を一旦やめた時期があったんですよ。そこから数年、ものを作るのを離れていた。没頭にはリスクもあるということは、身をもって知っています。でも今は、作らないことの方が危ないと感じている。
―― 作ることが、ある種の救いになっているということですね。
結局そうとしか言えないのかな、とは思います。ただ、面白いと思うのは、アートってネガティブなものもポジティブに変換できるチャンスがあるというか。必ずできるとは言わないですけど、巡ってくる瞬間がある。それがいいところだなと思いますね。
―― アートセラピーについても関心をお持ちだとか。
はい。そういう本を読んでいた時期がありました。ひとつ引っかかった表現があって。「生きられなかった世界を形にすることがセラピーになる」という言葉なんですけど。とても普遍性がある言葉だなと思って。自分が生きられなかった世界——それは自分以外の誰かの視点でもあるし、なぜ世の中はこうなのかという大きなレベルでもあるし。そこに思いを馳せていくことが、自分という狭いところを客観視して、世界を少しずつ広げてくれる気がしています。


メキシコ滞在中の一コマ

メキシコで描いた絵
取材を終えて
「メキシコの旅で得たものを何か一言で表現できますか?」と聞いた。小林さんはしばらく困った顔をして、こう答えた。
「つくづく、旅って不思議だなと思いました。」
言葉少なく、それでも確かな質量を感じる一言だった。1年間見ず知らずの土地をさまよい、自らが描くべき対象は何かを考え抜き、1本のドキュメンタリー映画を作り上げた人の言葉として。
「ものを作るということが、自分が進む道をリードしてくれる」
絵本がメキシコへ導き、そのメキシコでの旅が映画となり、その映画は今度ここ札幌で上映される。
ものづくりによって、点と点が繋がっていく。まさしく旅のように。
取材・文:ミチガミ
NEWS📢💫
小林大賀さん監督の「巡礼の季節−ヒクリ、8000と20年」の上映会をウツワツクルで開催します!
文字だけでは伝えきれなかった熱量を、ぜひスクリーンで感じてください。
■日時
2026年10月31日(土)〜11月3日(火・祝)
①14:00〜16:00 ②18:00〜20:00
※11/2(月)は18:00の回のみ、11/3(火・祝)は14:00の回のみとなります。
※10/31(土)・11/3(火・祝)の回は、上映後に監督による舞台挨拶とトークがあります。
※10/31(土)18:00の回は、三角みづ紀 第十詩集『メキシコ』出版記念朗読会・トークを同時開催します。
※各回20分前より開場・受付開始いたします。
■会場
ウツワツクル
札幌市中央区北3条東5丁目5 岩佐ビル1階(サッポロファクトリー向かい)
■入場料
1,800円(当日払い/事前カード決済)
※前売りはございません。完全予約制で、当日のカード払いも可能です。
■定員
各回30名
上映会について詳しくはこちら!